
第二話:裏山の墓石と赤い着物の女
「絶対に裏山には近づくな」
小さい頃から、祖母に何度もそう言われてきた。
だけど、あのノック音のあった翌朝、
なぜか私は、裏山のほうへと足を向けていた。
祖母の家のすぐ裏には、うっそうと木が生い茂る山がある。
地元の人たちは「鎮守の山(しずめのやま)」と呼び、ほとんど誰も立ち入らない。
その朝、私はまるで導かれるように、山道へと足を踏み入れていた。
おかしいとは思ったが、戻ることができなかった。足が勝手に進む。
やがて、小さな空き地のような場所に出た。
そこには、苔むした墓石が三基。
どれも文字は風化して読めない。
ふと、その中央に、何か赤いものが見えた。
それは、「赤い着物を着た女」だった。
顔は長い髪に隠れていて見えない。
女は墓石の前に、静かに立ち尽くしていた。
声をかけようとした瞬間。
女の首がゆっくりと、ぐるりと後ろに向いた。
目が合った。
と思った瞬間、視界が真っ白になった。
気づいた時、私は祖母の家の玄関前で倒れていた。
日差しは高く、時間はすでに昼を回っていた。
祖母は無言で、私の顔をじっと見つめたあと、こう言った。
「見てしまったんだね。赤い着物の“あの人”を……」
その日の夜、祖母は話してくれた。
あの裏山には、昔処刑場があったこと。
罪人の中に、どうしても死にきれない女がいたこと。
その女は赤い着物を着せられ、首を斬られたが——
夜な夜な、自分の首を探してさまよっている。
ノック音とささやき声は、その女の訪れの合図。
姿を見てしまった者は、3日以内に“交換”されるという。
私は祖母にすがりつき、どうすれば助かるのかと泣いた。
祖母は、ふっと目を伏せて言った。
「ひとつだけ方法がある。
——でも、その代わりに誰かに“来てもらわなきゃ”ならないの」
第三話へ続く:「最後の夜と、代わりに来たもの」
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