『カガミの中の女』

俺の住んでるアパートは築40年以上の古い木造で、風が吹けばきしむ音がしてくる。家賃が安いから仕方なく住んでたんだが、引っ越してから妙なことが続いてた。

夜中、ふと目が覚めると誰かが俺の名前を呼ぶんだ。かすれた、女の声で。最初は夢かと思ったが、何度も続くとさすがに気味が悪くなる。

ある晩、トイレに起きたとき、ふと洗面所の鏡を見た。そこには、俺の後ろに女が立っていた。長い黒髪で顔はぼやけて見えない。驚いて振り返ったが、誰もいない。

だが、鏡を見ると、まだ女がいる。

その日以来、鏡に映る“何か”がはっきりと見えるようになった。女は夜になると鏡の中で俺をじっと見ている。笑っているようにも見えるし、泣いているようにも見える。

怖くなって鏡に布をかけた。だが、次の日の朝、布は床に落ちていて、鏡には手形がべったりとついていた。しかもその手形は、鏡の「内側」からついたものだった。

限界を感じた俺は、アパートの大家に話を聞いた。大家はためらいながらも話してくれた。

「実はな……あんたの部屋、10年前に女の人が住んどってな……風呂場で自殺したんや。原因は知らんが、発見されたとき、顔が崩れててな……鏡の前に倒れてたらしい」

もう耐えられなかった。俺はその日のうちにホテルに逃げた。そして翌日、引っ越しの手続きを済ませた。

荷物をまとめてるとき、洗面所の鏡の前に立った。なぜか確認したくなったんだ。

鏡を見た瞬間、俺の顔が女の顔に変わっていた。

泣きながら笑っている女が、鏡の中からこう言った。

「ねえ……次は、あなたの番よ」

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